手術事例ブログ

2016年2月12日 金曜日

チワワ パテラ 膝蓋骨脱臼 動物病院 調布 府中 三鷹 武蔵野 狛江

膝蓋骨内包脱臼は小型犬に非常に多く、特にチワワ、ヨークシャーテリア、トイプードル、パピヨンなどに多くみられます。膝蓋骨という膝のお皿が内側にゴリッと外れてしまうことで痛みがあります。そしてグレードが軽いものでははずれたお皿がまたもとの位置にゴリッと戻ります。このはずれたり、戻ったりを繰り返すと膝蓋骨が乗っているレールの部分が削られていきます。これが原因で慢性関節炎になっていきます。さらにお皿がはずれている時間が長くなってくるとスネの骨が内向きになっていきます。このことにより膝の中の靭帯に負荷がかかり、十字靭帯損傷などに発展することがあります。さらに半月板も痛めてしまうこともあります。グレード1で本当にたまにはずれるくらいであれば経過観察でいいと思います。しかししょっちゅうはずれて痛みを呈する場合には、たとえグレード1でも手術で治した方がいいとおもいます。手術しなくても普通に歩いてるから大丈夫という考え方もありますが、想像してみてください。膝のお皿が歩いていて突然ゴリッとはずれたら・・・。歩くのが不安になりますよね。しかも関節炎が徐々に進行していくということは慢性的な痛みを抱えながら生きていくことになります。人間は2本足なのでおそらく歩けなくなってしまうでしょう。犬は4本足なので他の足に重心を分散させれば歩くことはできると思います。だからといって歩ける=不安を感じていない、痛くないとは違うと思います。痛そうな表情をみせないし、普通に歩けているからといって何も感じていないのではないのです。先日も膝蓋骨脱臼のチワワさんが来院されました。6歳でしたが1歳になる前には膝蓋骨脱臼があると指摘されていたそうです。最近寝ていて起き上がった時に3・4歩びっこをひくようになったということです。膝を触診すると屈伸時に軋むような感触がありました。やはり慢性関節炎により痛みが出てきている状態です。こういったわんちゃん達をみているとグレードが低いからといって安易に様子を見ていきましょうというのはどうなのだろうと考えてしまいますね。



1歳のチワワさんの膝蓋骨脱臼の手術です。グレードは2です。最近足をあげることが増えてきたということで手術することになりました。


皮膚を切開します


膝関節の内部を露出したところです。膝蓋骨が上下に滑るレールの溝を深くします。


溝を深くする方法はいろいろあります。今回は楔形に切り出し、深化する方法で行いました。
レールを切り出したところです。


軟骨を切り出した後にさらに深く切り込みを入れ、そこに最初に切り出した軟骨部分をもどします。
そうするとレールが深くなり膝蓋骨がはずれにくくなります。レールの水平面で見た写真です。


深化したレールを正面からみた所です。


そして次にスネの骨の膝蓋靭帯がついているところの骨に少し切れ目を入れます。


そして切れ目を入れた部位の浮いた骨を少しだけ外側にずらします。


ずらした骨を固定するために細い金属のピンを骨に差し込みます。この脛骨粗面をずらすことによって膝蓋骨が内側に引っ張られる力を弱くすることができます。


次に、膝の外側の伸びてしまった筋膜、靭帯をカットし縫縮します。これによりさらに膝蓋骨が安定します。


関節を閉じます。



皮下組織を縫合します。


皮膚を縫合して終了です。

患部の腫れを防ぐため、包帯を巻いて3日〜7日の入院したのち退院します。

この手術によって膝蓋骨がゴリッとはずれることから解放され、慢性的な痛みを呈するようになるのを防ぐことができます。

投稿者 西調布犬猫クリニック | 記事URL

2016年2月11日 木曜日

犬 会陰ヘルニア 手術(メッシュ)調布 府中 三鷹 武蔵野 狛江

犬の会陰ヘルニアは高齢犬でよく見られる疾患です。日本では特にダックスやコーギーに多くみられます。
会陰部と言われる直腸の脇の部分の筋肉が萎縮し、腹腔内の膀胱や前立腺、直腸やその周囲の脂肪などの臓器が逸脱してしまう病気です。男性ホルモンが原因の1つと考えられていますので予防には去勢が有効とされています。しかし去勢していても罹患することもありますので他にも原因があると考えられます。コーギーのようにしっぽがほとんど無かったり、短かったりするとお尻の周りの筋肉が発達しにくく罹患しやすいなんてことも言われています。他にも吠え癖がありお腹に力が入りやすいコも要注意です。さらには尿路系疾患や前立腺疾患、大腸疾患があり排便排尿時に時間がかかるコなども罹患しやすいと思います。臓器が逸脱してくる部分の穴をヘルニア孔といいますがこのヘルニア孔から膀胱や小腸が逸脱した場合に排尿障害や小腸の機械的イレウスを起こすことがあり、緊急疾患として扱われます。会陰ヘルニアに罹患すると直腸が拡張したり、蛇行したりすることで排便障害も起こります。排便時に踏ん張ってもなかなかウンチが出てきませんので酷い場合には飼い主が直腸の両脇を軽く圧迫して排便を補助しなければなりません。この期間が長く続くと直腸は脆弱化し破裂することもあります。

下のワンちゃんは以前から会陰ヘルニアを罹患しておりました。そして今回軽度の椎間板ヘルニアを発症し内科的治療を行ったところ、数日後に尿が出ないということで緊急来院されました。排尿障害の原因は会陰部に膀胱が逸脱したことによるものでした。用手で膀胱を腹腔内に戻そうとしても膀胱がパンパンに張っており、まったく戻りませんでした。経皮的に会陰部の膀胱に注射針を刺し、尿を抜き取りました。そうすることで膀胱を腹腔内に戻すことができました。再発の危険性がありますので数日後手術を行いました。下の写真は手術前の状況です。肛門の両脇が腫大しているのがわかります。さらに直腸内に溜まった便が弛緩した肛門から見えます。




肛門の両脇を指で押すとヘルニア孔から逸脱している臓器を押し戻すことができます。


手術ですが、今回のように膀胱や前立腺が逸脱してくる場合には開腹し、前立腺や膀胱、結腸をお腹の筋肉の内側に縫い付けて固定します。そうすることでヘルニア孔からこれらの臓器が逸脱するのを防ぎます。写真は精管を腹壁に固定しているところです。


次に結腸を腹壁に縫い付けて固定します。

そして膀胱も腹壁に固定しお腹を閉じます。


お腹を閉じ終わったところです。


次に会陰部を切開し、ヘルニア孔を塞いでいきます。

指を入れている部位がヘルニア孔です。このとき固定に使用する。肛門挙筋、尾骨筋、外肛門括約筋、内閉鎖筋、仙結節靭帯を確認します。


坐骨から内閉鎖筋を丁寧に剥がしていきます。ここに糸をかけていきます。


ヘルニア孔を防ぐためのポリプロピレンメッシュです。固いタイプと柔らかいタイプがありますが、柔らかいタイプの方がより組織と馴染むので柔らかい方を使用しています。


そしてこのメッシュを先ほどの筋肉や靭帯に縫合していきます。上部は肛門挙筋、尾骨筋に、内側は外肛門括約筋に、外側は仙結節靭帯に、下部は先ほど剥がした内閉鎖筋に縫合します。全ての糸を確実に各筋肉、靭帯に通さなければなりません。


通した糸を結紮していきます。

さらに、メッシュを縫縮します。これによりさらにヘルニア孔を小さくします。


そして皮下組織を縫合し、皮膚を縫合します。


上記の操作を反体側にも行います。


手術後1ヶ月の状態です。このころには椎間板ヘルニアによる後肢の不全麻痺もよくなっており、元気にお散歩しているとのことです。


肛門の位置が正常な位置へ戻っているのがわかります。


膀胱、前立腺、直腸固定のために切開したお腹の傷もキレイになっています。


上が手術前の写真で、下が手術後の写真です。肛門の位置が正常な位置に戻り、肛門周囲の腫脹も改善しています。


正面からの写真です。上の手術前の写真は直腸内の便が弛緩した肛門からみえますが、下の手術後の写真ではかいぜんしています。


会陰ヘルニアは高齢犬に多く、手術をするか、しないかで非常に悩まれると思います。しかし排尿障害や小腸の機械的イレウス、直腸の脆弱化による破裂などにより命に関わる状態になることも多々あります。
手術ができる体力があるのであれば可能な限り積極的に治療を行うことをおすすめします。

ちなみに下の写真は他院にてヘルニアプレートというシリコン性のヘルニア治療用具で治療したあと、そのプレートが逸脱してきた例です。

私自身はヘルニアプレートを使用したことはありませんが、このヘルニアプレートは20年以上前から使用されているもので、これまでに多くのヘルニアを治してきた実績がある非常に優秀な道具だと思います。しかしそれぞれの体の大きさに適したものを使用しないとこのように逸脱してしまうと考えます。その意味ではポリプロピレンメッシュは犬の体の大きさに合わせてサイズを調整することができ、さらに生体との相性もよくほとんど異物反応を起こしません。現在私はこのメッシュによる方法と睾丸を包んでいる鞘膜を使用する方法を選択しています。どちらを行うかは患者の状態によって選択しています。会陰ヘルニアの治療法はほんとうにたくさんあります。どの治療法を選択したとしても再発してしまう可能性があります。それぞれの状態に合わせてどの方法が最適なのかを考えて行うことが重要です。

投稿者 西調布犬猫クリニック | 記事URL

2016年2月 8日 月曜日

前肢手根関節の軟部組織肉腫 犬 動物病院 調布 府中 三鷹 狛江 武蔵野

犬の軟部組織肉腫はここでも何度かご紹介しておりますが、再びご紹介したいと思います。

軟部組織肉腫に関しては以前説明したものを参考にして頂ければと思います。

簡単にまとめると、転移することはあまりないが局所浸潤性が強く、最初の手術でしっかりとれなければ再発の可能性が高い腫瘍です。

とにかく最初の手術で可能な限り腫瘍をバリアになるもので包みながら切除することが重要です。

しかしこの腫瘍は四肢にできることが多く、そこで問題になるのが切除した後の皮膚の縫合です。ただでさえ四肢は皮膚が少ないところです。体幹であればわりと皮膚が余っていますので大きく取っても皮膚は寄せて縫合できます。しかし前肢の肘より下はまず皮膚が寄りません。肘より上であれば皮弁法という皮膚を一部切り離さずに切り出した皮膚で覆うことも可能ですが肘より下はそれもできません。なかなか悩ましい腫瘍なのです。

今回ご紹介する犬は手根関節の裏にできた軟部組織肉腫の例です。ちなみに私の愛犬のポーさんです・・・。



手根関節の裏に位置しています。


最近のはなしでは水平方向は1㎝もあれば十分ということも言われておりますのでマージンはそのくらいとって切除しています。本来であればもう少しマージンを取った方がいいに決まっていますが実際のところはそうなると皮膚移植などが必要になり入院期間が長くなるし、皮膚が壊死する可能性もあるし・・・ということでまあそのくらいとなっているのです。もちろん体幹部の軟部組織肉腫は皮膚がたくさんあるところなのでそれなりに十分なマージンを取った方が安全です。


垂直方向のマージン、つまり腫瘍の底部に関してはやはりこの部位では多くとることはできません。1㎝深く切除すると歩けなくなってしまいます。そこで丈夫なバリアになりそうな膜を探します。この部位では筋肉の表面にある筋膜があります。この筋膜を慎重に筋肉からはがし、腫瘍が顔を出さないように筋膜で包みながら切除するのです。メスで細かく細かく剥がしていきます。


手根部はかなり入り組んでいますので腫瘍が深い部位に入り込んでいます。その部位も腫瘍が露出しないように筋膜を剥がしていきます。


なんとか筋膜が連続性を保った状態で切除できました。


腫瘍を切除した状態です。


もちろん皮膚はよせても届きません。


そこで皮膚を格子状に切開していきます。これにより皮膚を寄せることが可能になります。

縫合した状態です。このあと包帯を巻いて、2日おきに交換していきます。


切除した腫瘍の底部です。腫瘍を薄い筋膜が覆っています。病理検査の結果は腫瘍は取りきれているという判断でした。


手術後10日経過した時の状態です。


2週間後の状態です。


1ヶ月後の状態です。


軟部組織肉腫は転移率は低いのですが非常に厄介な腫瘍です。以前は多くの場合、断脚が選択されていました。それほど再発率が高く、再発後は再度手術しても腫瘍は残存してしまいますので、再発は時間の問題です。その後増大していき自壊し、出血、感染を起こし全身状態が悪化していき衰弱していきます。

下の写真は軟部組織肉腫が肘の外側にあり、肘の深部に浸潤しており断脚をするかそのままで経過を見ていくか非常に迷った例です。結局15歳という年齢と肥満のため(コーギーで肥満なので断脚後は歩行が困難と判断)断脚せずに経過を見ていきました。数ヶ月後、腫瘤が自壊し出血が止まらなくなりました。急速に貧血が進行し、Mohsクリームで出血をおさえる処置を繰り返しましたが結局最後は患部からの感染で全身状態が急激に悪化し亡くなってしまいました。状況から考えて断脚はした方がよかったとは思いませんが、軟部組織肉腫が直接死因になってしまったのを目の当たりにして、やはり恐ろしい腫瘍だなと再確認しました。


Mohsクリーム処置後。この処置を繰り返し出血をある程度コントロールしていたが・・・。


長々と書いてきましたが、やはり全ての腫瘍で言えることは早期発見早期治療がすべてです。そして1回目の手術でいかにしっかり切除できるかがその後の人生を左右します。
似たようなシコリを見つけた際には動物病院に相談しましょう。





投稿者 西調布犬猫クリニック | 記事URL

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